日時 10月25日(金) 午後2時から5時
場所 如水会館会員会議室
人数 19人
テーマ 米国大統領選挙の行方と今後の日米関係
議事要旨
関西学院大学フェロー(元JETRO理事)の鷲尾元春氏からご講演をいただき、その後質疑応答を行なった。
(講演要旨)
1984年の大統領選挙の際、JETROニューヨーク事務所に勤務しており、当時の浜岡所長から、日本の中曽根総理が、関心を持っておられるので、総理秘書官にFAXを届けるように言われて、報告したのが、最初で、以来、毎回情勢分析をしている。直近の状況は、僅差でトランプがリード。激戦7州の有権者の争奪戦。態度未定かあるいは棄権しそうな有権者(全有権者の精々9%)の囲い込み合戦。ハリス支持は、微減、トランプ支持は微増。譬えれば、ハリス支持は崩れやすい砂の城、トランプ支持は粘着力ある粘土の城。双方ともに、大衆迎合の度合いが増し、その都度小刻みに選挙ノミクス経済政策(チップ非課税、残業代課税廃止、商品価格にキャップ、初めて家を買う人への支援等)を打ち出している。10月22日現在激戦7州で早期投票を実施。これに絞れば、中西部3州では民主党が多かった(逆に言えば、投票日当日は、共和党票が多くなる可能性大)。サンベルト4州では、ほぼ互角。米国社会には、不安意識が蔓延している。経済は回復しているにもかかわらず、多くの人が懸命に働いても生活が思うに任せず、安心感や社会との繋がりが得られておらず、加えて、目まぐるしい技術革新が人々に追い立てられ感覚を生じさせている(FT5月27日)
ハリス、トランプとも、中国の追い上げに危機感を覚え、米国第一に傾斜する点で共通。内政では、ハリスはトランプの姿勢を「過去追憶的」、自らの姿勢を「未来指向的」と決めつけているが、対外面ではむしろ逆。ハリスの同盟国との協調の姿勢は過去の冷戦思想の反映に対し、トランプの交渉中心指向(新しい均衡を求めて、いかなる相手とでも交渉)は、新しいスタイル。上院議員選挙(今回の改選は民主党23人、共和党11人)では、改選数の多い民主党が不利と見られていたが、トランプが盛り返しているという印象の故か、各州にSprit-Ticket (大統領がトランプなら、上院では民主党で、バランスを取ろうという考え方)的な動きも見られる。全議員が改選の下院では、民主党が過半数を制するとの見方が有力視されている。コンサル会社ユーラシア・グループは、トランプ勝利の確率55%、ハリス勝利の確率45%としている。
選挙後も、選挙無効訴訟などがありうるので、結果が確定するまで、かなり時間がかかるだろう。選挙後の日米関係だが、トランプになった場合、トランプ流交渉が要注意。「私は取引そのものに魅力を感じる。私にとって、取引は芸術だ。取引に際し、強硬な態度を取るとそれなりに効果がある。やり方は単純明快だ。狙いを高く定め、求めるものが得られるまで押しまくる。」(トランプ自伝からの抜粋)米国での社会分断現象が日本にも波及してくる可能性だが、日本でもある程度その傾向が出て来るだろうが、未だ累進性を維持しており、相続税があるので、米国のようにはならないだろう。
(質疑応答)
-(米国では、ITのみならず、航空機、原子力なども発展しており、格差は益々拡大している。)IT 長者などの影響力は極めて大きい。
-(これまでの世界は、「法の支配」をベースとして来たが、トランプになると「ディールによる支配」になり、大変懸念している)ニューヨークタイムズ紙は、「トランプは、周りの人を不幸にする」と書いている。日本もこれに対し、覚悟を決める必要がある。先日、大島理森元衆議院議員議長から話を聞いたが、「日本も、世界のためにという考え方は改めた方がいい」と言っておられた。
-(今のグローバリズムは、少し行き過ぎではないか、移民の流入などに対し、ナショナリズムの観点から反発が出ている。)グローバル化が、世界全体の発展に寄与してきた面も評価すべき。ただ、それぞれの国の状況を踏まえ、行き過ぎは防ぐべき。
-(ユーラシアグループのイアン ブレマー氏は、世界各地で、リーダーシップのバキュームが生じていると警告している。)
-(日本が、今後、世界に対し、どう臨むかが大事。例えば、ルール作りの面で、原子力などでも標準化の動きがあるが、こうしたところに、もっと、関わっていくことが重要)
-(ウクライナ侵攻だが、自分は、4年8ヶ月暮らしたが、今の戦争は1日も早くやめるべき。)プーチンが、北京オリンピックにわざわざ行ったのは、何のためだったのか。ロシアの選手はドーピング問題で、国の代表としては出場出来なかったのに、行ったのは、ウクライナ侵攻を習近平に伝えるため。
-(日本は、今後、エネルギーや食糧の安定確保に尽力すべき。今、アメリカで起こっていることは、「文明の衝突」。先日、「シビル ウオー」という映画を見たが、アメリカの分断を象徴するような映画だった。こういう状況下で、台湾問題をどう考えるかについても、本当にいざというときに、アメリカが介入するのか、バンス副大統領候補やヘリテージ財団の論文なども注目すべき)
-(ウクライナ侵攻は「力による現状変更」で、これを認めると台湾でも同じことをやっていいということになるので、認める訳には行かない。ビスマルクは、国際社会では、表面上は、法やルールを守るべきと言っているが、実際には、力による支配が現実だと岩倉使節団にアドバイスしてくれたが、ドイツを統合してからは、一切領土拡大をしていない。ドイツの実力を弁えて、リアリスティックな対応。このことを、キッシンジャーは高く評価。「正義」には、それぞれの正義があり、相対的なものだ。トランプのように、自分中心、自国中心の人がリーダーになったら世界は大変だ。ただ、いい面もある。対中政策や、北朝鮮との対応。意図はともかく、結果は悪くない。日本がどう対応するかだが、永井陽之助は、「戦略の要諦は、身の丈に合ったことをすること」と言っている。トランプになったら、日本としては、何とか上手くやっていくしかない。台湾問題だが、備えは必要だが、あまり踊らされない方がいい。習近平と人民解放軍の関係は良くない。本当に、ゴーと言えるかどうか。)
-(我々が戦後学んで来た理想的なアメリカとは、違うアメリカが生まれつつあることが、よく分かった。ただ、よく考えると、アメリカは征服を続けて来た国であり、一神教の人々であり、「敬天愛人」の日本とは違う。)
-(今、アメリカでは、「アプレンテイス ドナルド トランプの創り方」という映画が封切りになり、トランプは、これに怒っているようだ。)
-(アメリカが本当に最後まで日本を守ってくれるのか、核武装も考える必要があるかも。→先ず、欧州のように核シェアリングの議論をはっきりさせる必要がある。他方、今や、世界に核拡散が拡がっており、日本のような被爆国という特別な立場にある国が、核武装ということになると、世界にさらに核が広がり、益々不安定になる。慎重であるべき。)
-(米国には、一杯人材がいるのに、なぜ、トランプとバイデン、ハリスしか、大統領選挙に出られないのか)その疑問はもっともだが、バイデンは現職の大統領で、もう一期あったので、予備選のときから、対抗馬が出る余地がなかった。この次の大統領選挙では、共和党も民主党も、有力な候補者が大勢出て来ると思う。
-(それにしても、アメリカの大統領選挙は、大変な時間をかけて、正に熟議のうえで、大統領を選ぶ。日本は、あまりに早く選挙し過ぎではないか。→200年前の馬車の時代には、こうした選挙も必要だったかもしれないが、今の情報化時代に、こうした選挙システムは、考え直した方がいいのではないか。この1年間、世界のリーダーのアメリカが選挙に忙殺されて、本来の政治が、出来ておらず、また、政治が選挙を気にして、やりたいことができないことも、心配だ。ただ、「銃規制」も含め、人間はなかなか、これまでの習慣は改められないようだ。)
(文責 塚本 弘)