コンテンツへスキップ

GJ研究会 – 令和日本のヴィジョン:「技術革新」

  • by

日時: 2022年6月22日(水)10時から12時30分
場所: zoom
参加者:10人
テーマ:技術革新

議事要旨
2人から報告があり、その後、議論を行った。

(小泉)
今は、劇的変革の時代。特にAI革命が重要。イスラエルの歴史学者ハラリ氏は、人類が直面する3つの課題として、世界的な戦争、環境破壊、それに破壊的な技術革新をあげており、特に、3番目の技術革新が最も複雑としている。AIと先端技術の進歩は、20~40年の間に我々の暮らしを大きく変えるとしている。ロボットが人に代わり、雇用市場は劇的に変わる。中国に見られるように、監視社会が出現する。AI革命の基本は、
(1)コンピュータ処理機能の劇的向上
(2)巨大なビッグデータの蓄積と解析
(3)ディープラーニングの劇的進化の3つだ。
2045年には、AIが人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達するという予測もある。これに対し、AIの負の部分に注目し、警戒する議論をホーキンス、ビルゲイツ、イーロンマスクなども述べている。米国のGAFAMの時価総額は日本のGDPの約2倍、その新技術への投資額は2021年1340億ドルと日本全体の研究開発費を上回っている。
こうした状況の中で、日本はどうすべきか。「シン・ニホン」の著者安宅和人氏は、第二の黒船ともいうべきAI革命を「出口産業」(幅広い大きな既存産業の存在、生産性に巨大な伸びしろがある)を多く有するが故に勝てるチャンスがあるという。すなわち、あらゆる業界、組織がAI -ready化すれば、勝てるとする。AI -ready化とは、AI人材を活用し、あらゆる業界でAIの作り込みを行い、データの利活用を容易に利用できる環境を作ることだとする。安宅氏は、「この国は妄想力では負けない」、すなわち、ドラえもんや攻殻機動隊を見て育った子供達は大きな発想力を持っている。
安宅氏は「日本が勝つための4つの提言」として、
(1)すべてをご破算にして明るくやり直す
(2)圧倒的なスピードで追いつき一気に変える
(3)若い人を信じ、託し、応援する
(4)不揃いな木を組み、強いものを作ると述べている。
日本は常にゼロベースでイノベーションを行ってきた。伊勢神宮の式年遷宮はその象徴、明治維新もすべてをご破算にして近代化を徹底的に求めた、戦後のTQCへの取り組みで効率的生産システムを確立した、ソニーの若きリーダー井深、盛田両氏も30代、20代で活躍。さらに、安宅氏は、残すに値する未来を作ろうということで、「風の谷プロジェクト」を提唱している。テクノロジーを使い尽くして、自然を生かした、暮らしやすい環境を作ろうというものだ。「さあ、行動だ。」

(泉)
安宅氏は日本は巨大情報革命に遅れをとったが、この国はもう一度立ち上がれるとしており、特に、若い世代に期待している。明治時代も我が国はすっかり遅れをとっていたが、岩倉使節団をはじめ、明治創業世代が各分野でキャッチアップに取り組んだ。小栗上総介は1860年新見使節団に参加して造船所の必要性を痛感し、フランス政府の支援を請うて横浜造船所を遂行し、明治政府に譲渡した。肥田為良は、幕臣時代、横浜造船所にかかわり、岩倉使節団に参加し、帰国後、蒸気機関、造船、鉄道など各界で活躍、産業革命の先導者となった。寺島宗則は島津斉彬公の下での経験もあり、横浜知事時代に東京と横浜の電信の架設を敢然と決行し、また、海底電線の敷設にも関わり、長崎と上海やウラジオストックをつなげ、ロンドン、ニューヨークへの電信を可能にした。伊藤と山尾は工部大学校の設立を目論み、ダイヤーをはじめ8人の教師を招き学生の養成に努めた。初期の学生から、田辺朔郎(土木:琵琶湖疎水、水力発電所等)、辰野金吾(建築:日銀等)、曾禰達三(建築:一丁ロンドン等)

大井才太郎(電気工学、電信)、高峰譲吉(薬学:タカジアスターゼ、アドレナリン)などが輩出した。小野博正氏の調査によれば、お雇い外国人は明治8、9年にピークに達し、予算は2900万円に及び624名に達した。安宅氏の関わっておられる「風の谷プロジェクト」は、都市集中の中で、衰退しがちな地方を、テクノロジーの力を使い尽くして住みやすい場所にしようという試みである。こうした形で、自然とともに人間らしい生き方を求めて行くのが望ましいと考える。

その後、皆さんから次のような議論があった。

-ソニーの出井さんは、「デジタル ドリーム キッド」というコンセプトを打ち出して、ソフトウェア化を進めた。その後、銀行や保険分野にまで進出し、さらに吉田憲一郎社長はプレイステーションをヒットさせ、今やメタバースの世界に入っている。売り上げの2割ぐらいがハードウェアだ。

-日本がもう一度立ち上がるにはどうすべきか。科学技術予算もダメ、才能を巡る争奪戦もダメ。これからは、老人の社会保障を削ってでも、若い人たちに投資する国になるべきとの安宅氏の警告を重く受け止めた。これを実行できるかどうかだ。

-AIが人間の仕事を奪うと考えると気が重くなる。人材の育成が大事だが、これからは、「気をつけ前に習え」を止めるべき。減点主義の教育もダメだ。ピアノで、自分はドビュッシー以外は弾けないという子供が、慶応の湘南からヤフーに入った。不揃いな才能を大事にすることが大事だ。子供は、「風の谷のナウシカ」の深い意味もちゃんと理解している。

-小泉さんの議論、とても勉強になった。国会議員にもこうしたことを知ってもらいたい。ただ、日本全体がAIに向かうことには疑問がある。大田区には1万ぐらいあった工場が今や1000ぐらい。モノづくりの部分も大事にすべき。

-アメリカにいる娘が記者を辞めて、ビッグデータを使ったスタートアップの会社に勤めており、AI化の流れを感じている。

-3点を指摘したい。先ず、日本に出口産業があること。実際、農業などはAIとドローンを駆使することで、今後大きな可能性がある。地方の交通もオンデマンドと自動走行の組み合わせで、20年ぐらい先は大きな変化が起こるだろう。二つ目は、日本の大企業のポテンシャルだ。相当多くの資金があるにもかかわらず、新規投資が不十分。これは、中間管理層が失敗を恐れて過剰な規制をするからだ。トップがこれを改めれば、相当なイノベーションができる。三番目は、若者のベンチャー指向をどう進めるかだ。官民あげて、新しい仕組みを考える必要がある。先日、前豊岡市長の話を聞いた。コウノトリを通じた環境整備、劇場を中心にした街作りなど、とても前向きな行政をされたと感銘を受けた。

-出口産業の強みを生かすべきとの指摘はそのとおりだ。ダボス会議の発表では、日本は観光競争力でNO1だ。日本の自然の美しさは大きな力だ。また、日本の生活保護費は大きなウエイトを占めているが、これをもっと若者の未来のために使うべきだと思うが、なかなか容易ではない。

-北岡先生は、我々への講演で、明治の先達は、最重要課題をはっきりさせて、それに一心に取り組んだと言われた。今、最重要課題というと、ウクライナ問題をいかに早くやめさせるか、と格差の問題ではなかろうか。AIが人間に取って代わるとなると、ベーシックインカムの問題も考えなければならないかもしれない。

(文責 塚本 弘)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です