日時 2022年3月25日(金)10時から12時30分
場所 zoom
出席者 11人
テーマ 財政問題
まず2人から報告があり、その後議論を行った。
(森本)日本の現在の財政は明治維新期に匹敵するほど悪化しているが、明治新政府が次々手を打ちこれを乗り切ったことに私共も学びたい。
昨年の文芸春秋11月号の「財務次官もの申すーこのままでは国家財政は破綻する」では、矢野財務次官が日本の長期債務が今1、166兆円でGDPの2.2倍になっていることに警鐘を鳴らし、不都合な真実を直視し先送りすることなく最も賢明な対応を訴えた。これに対し浜田宏一氏などMMT論者から日本は十分な資産を有し、家計と違い国は通貨を発行できるから借金はまだまだしても大丈夫という意見がある。国をリードする経済人としてこれに同調する高市政調会長共々いささか無責任な感じがしないでもない。
次に伊藤元重氏はアベノミクスの成果と限界について、2012年から2019年までGDPは494兆円から552兆円に増え、失業率も減り、株価も上がりそれなりの成果を上げたが国民に経済回復の実感はなかったという。それはその間の成長率が低かったことと、民間サイドの生産性の低さによるものと思われる。更に巨額の財政債務も残ったままであり二つの懸念がある。一つはどこかで財政破綻をする恐れがあること、もう一つは将来世代への負担の増加だ。弁護士の明石順平氏はアベノミクスでは実質賃金は下がっており、円の力も低下したとし、今後の社会保障費増大に備え、「国破れて山河在り」とならぬためにも国民に真実を知らせて増税を覚悟してもらうべしとする。
日本をどう再構築するかについて、小林慶一郎氏は国は「知らしむべからず」、国民は「知らぬが仏」と決め込まず、今後ますます増える社会保障費の見通しを明らかにし、消費税を中心に増税によって対応するとともに、2,000兆円の金融資産をうまく活用するなど国が責任をもって対応しなければならないと述べている。一方これに対し増税で日本経済は壊滅すると主張する財務省出身の高橋洋一氏のような人もいる。
以上財政問題についての主要な議論だが、自分はこのままでは国家財政は破綻するという矢野財務次官の危機意識に共感し、地道に財政健全化の道を歩むべきと考える。
(塚本)明治初期、政府は三つの構造的な財政問題に直面していた。人口の6%の武士層に対する秩禄支給が歳出の3~4割を占めていたこと。旧幕藩体制からの幕府や諸大名の膨大な債務を抱えていたこと。米穀などの現物中心の租税のため、歳入が米価によって大きく変動したこと。これらの課題を大蔵卿の大隈重信は、井上馨、渋沢栄一、などを登用し、次々に改革し、1875(明治5年)ごろにプライマリーバランスを回復させた。さらに、大量の悪金(贋金)への外国からのクレームについても、大隈はパークスとの旧知の関係を踏まえ、適切に対応した。日本の財政は、歳出では、社会保障費が1990年の17.5%から2021年には37.3%になっていること。OECDの国民負担率の各国比較では日本は平均よりも低いこと。国と地方を合わせた公債等残高の対GDP比は、2004年の130.2%から、2021年には211%に増えており、欧州のギリシア(205%)、イタリア(155%)、スペイン(120%)より悪い。国債の利払費は、今は金利安(0.9%)のため比較的落ち着いているが、1980年代のように7%台だと大変な金額になる。EUでは政府債務の対GDP比は60%以内を加盟条件としている。歳出のメリハリも重要で、科学技術予算は1889(平成元年)に比べ約3倍、他方、公共事業費は0.83。ただし、老朽化したインフラの修復は重要。自分も冗費を削減することは大事だと考える。
その後、皆さんから次のような議論があった。
-いわゆるリフレ派が異次元の金融緩和を進めたが、経済は全然改善されておらず、成長していない。
-アベノミクスは、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の三本の矢で、デフレを脱却し、名目3%の成長を目指すといわれたが、実際は金融緩和だけだった。もっと、痛いところにメスを入れる構造改革をやらないといけない。小泉改革も郵政改革などしかやっていない。世界を見ると、ウーバーが多くの国で普及しているが、日本では認められていない。農業でも農協が中心の仕組みは変わっておらず、新規参入が進んでいない。高速道路を無料化すれば、運送コストが相当下がるはずだ。アメリカやドイツでは基本無料だ。政治の利権構造にからんでいるので、こうした改革が進まないのが、大きな問題だ。
-大企業が配当をたくさん支払い、賃金を上げていないのも問題だ。
-MMTについては、インフレになったら、大変なことになること、将来世代への負担の先送りになることが問題だ。高速道路については、いきなり無税は難しくても、一律料金にする手もあるのではないか。そうすれば、輸送コストが削減できるとともに、もっと旅行に行く人も増える。
-MMTについては、若干の誤解があるので、コメントしたい。インフレになったら困るという議論があるが、MMT論者もそのときは消費税を上げて、インフレを抑えればよいと言っている。インフレというとき、物価上昇をどうとらえるかで、コア指数で見るのがよいという議論もある。もちろん、冗費を増やせなどということも言っていない。今、日本にとって大事なのは、いかにデフレから脱却し、経済の好循環を作るべきか、そのためにイノベーションをどう生み出すかである。こういう本質的な問題を行うためにも、MMTについて、もっと本格的な議論が行われるべきと考える。日本の大企業は、ある程度稼いでいるので、無茶をしなくなっている。これで十分幸せという考えだ。これを改めようというのがMMTでもあり、大いに議論すべきだ。
-日本の長期戦略を考えるのは、今までは官僚と政治家だったが、省益や既得権益にとらわれて、うまく行っていない。外圧や戦争がないと変われない国では困る。
-磯田道史氏と波頭亮氏のyoucubeを見た。この30年の日本の停滞は、江戸時代とよく似ているとの指摘に同感だ。何とかしないといけない。
-この30年を停滞ととらえる議論もあるが、よくよく考えてみると、我々の生活は随分豊かになっているのではないか。テレビだけではなく、youcubeなどもどんどん増えて、例えば、中田敦彦のyoucube大学など、実に面白く歴史を論じている。今は、とても安価に楽しい生活ができる大飽食の極みともいう時代になったともいえる。若い世代も、資産を譲り受けた人達は、あまりあくせく出世しようなどと考えていない人も増えているのではないか。他方、非正規雇用の人など、貧富の差が広がっていることは大きな懸念材料だ。
-停滞する日本という議論があったが、確かに成熟した日本ではあまり大きな経済成長はしていないが、日本企業のこの30年間の海外進出は目覚ましい。それぞれの国の発展に大きく貢献している面を忘れてはならない。
-確かに、停滞の30年といわれるが、日本企業は、円高対応、海外進出で大きな試練を受けた。構造改革でも、日本企業は、雇用を重視し、一気にやることはしなかった。不採算部門の廃止でも、従業員を他の部門に回すなどの対応をしてきたため、外国の企業に比べ、大胆な構造改革とならなかった面がある。ただ、着実に実績は出ており、例えば、知財の国際収支は、以前は、赤字だったが、今や大幅な黒字(2019年度 2兆円)になっている。日本企業の生産性が低いといわれるが、ものづくりの現場での生産性は相当改善されている。問題は、間接部門の生産性があがっていない点で、これについては、DX革命が必要だ。
-日本では、基本的に集団主義で進んで来たので、1992年にインターネット時代が始まっても、うまく対応できなかった。インターネットは、個人主義をベースにしている。
-円安、インフレがもう始まっている。そういう中で、GDPはそう大きくは成長できない。問題は既に表面化している。
(文責 塚本 弘)