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実記輪読会:33巻「新城府ノ記 上」

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日時:2020年10月14日 13:00~15:00
場所:ZOOMに依るインターネット開催
内容:第三十三巻「新城府ノ記 上」
ナヴィゲーター:遠藤藍子

 行程概要
今回の対象期間は明治5年9月19日~9月20日(新暦1872年10月21日~22日)。行程は、19日朝列車でエディンバラ(スコットランド)を出発してイングランドに入り、凡そ100キロメートル南の村ガラシールズでラシャ製造所を見学。次いでメルローズに向かい、修道院の遺跡を見物。その後ニューカッスル・アポン・タイン市に向かい、宿泊。市はエディンバラから約180キロメートル。この日は終日雨で周辺見物はできなかった。翌20日は同市を走るタイン川沿いのアームストロング大砲製造工場と郊外のゴスフォース炭鉱を見学。

 ラシャ工場見学および久米の東西文明論<p252-12 ~ p258-9>
久米はこれまで同様、工場で豪州産の綿羊がラシャ(羊毛)に加工される工程を詳しく報告。ここで、次のような久米の東西文明論が提示されている。。

――今日、天然資源に乏しい英国で紡織業が盛んになり富をもたらしているのに対し、原材料が豊富な東洋や南洋に製造業が起こらないのは人民が怠惰なためだ。かれらは風雅な手工芸品を作る才能も知力も備えているが、物に即して理論を抽出して利用しようとする進取の精神が不足している。一方西洋人は物理・化学・機械工学を発展させて利用することで、劣っている才知をカバーして今日の富強を得た。東西の文明は決して異質のものではない。

 メルローズアベイ(修道院)の見学<p257-13~p258-7>
ここは1136年にスコットランド王の命により創設された修道院。300年前に兵火(対イングランド戦)で破壊され、修復されたものの今は廃墟と化している。

名匠が手掛けた建築で彫刻やアーチが優れている。殊にアーチの技法の緻密さは後世の建築家も及びがたいという。遺言で当院に葬られた近隣の名家の墓が多い。

 ニューカッスル(アポン・タイン)へ<P258-8~P259-6>休憩後、汽車でニューカッスル(・アポン・タイン)市へ。同市泊。市はエディンバラから約180㎞。ノーサンバーランド州の州都。英国一の炭鉱が繁栄の基盤。羊も多い。北海の要港で船舶の出入りが多く貿易が盛んである。職人や鉱夫が多く風紀はあまりよくない。

大砲製造工場見学<P259-7~P263-9>
アームストロング氏の案内により同氏の大砲製造工場で以下を見学。①~⑥を見学。
①桟橋の鶴頚秤(テレッククレインテリッククレーン)
②水力利用の機械工場
③蒸気機関使用の機械工場(大砲製造/蒸気機関/水力機関製造)
④射撃場(ガットリング砲の試射見物)
⑤銑鉄製造工場(鉱石から銑鉄製造のノウハウ)
⑥石炭ガス製造設備

しかしこうした多種の現場を見学したものの、久米は機械工学や化学の知識を必要とするものを漠然と、しかもたった半日で見ても無益なので多くは見過ごしたと、珍しく弱音を吐いている。

 ゴスフォース炭鉱見学<P263-10~P256-5>
まずゴスフォース炭鉱の位置、規模、構造などを説明。事務所で精緻な鉱脈図を見せてもらい、久米は西洋の鉱業の緻密さに感じ入るが、それでもなお蹉跌(事故)があることに鉱業の難しさを思っている
炭鉱施設を概観後、一同着替えて坑底を見物。真っ暗闇の坑内から地上に出たときは「泉下を出でて天上に昇れる心地をなす(地獄から天国へ)」と率直な心境を吐露。続けてイギリス石炭産業の歩みに言及。石炭生産量が飛躍しているがその多くが国内消費に向けられている事も踏まえ、国内の石炭は後636年で消費され尽くすとの説も付記している。

なお、実記には70歳近い(実際は61歳)アームストロング氏がこの日の見学行程すべてに付き合っていることが記されている。
(遠藤記)

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