日時:2018年11月17日(土)13:30~16:30
場所:国際文化会館401号室
演題:「多角的貿易体制の直面する問題点」
講師:小田部陽一氏(元在ジュネーヴ国際機関日本政府代表部
特命全権大使)
要旨: 日本では、日EU EPA、TPP11、についての明るいニュースがあるが、国際的には、トランプ政権によるアメリカファースト政策により、貿易戦争とも呼ぶべき状況に陥り、WTO(世界貿易機関)も危機に直面している。こうした状況もあり、世界経済見通しも下方修正となっている。
「強固で持続可能かつ均衡ある成長」実現のため、貿易の役割が大きいことは言うまでもない。戦後、世界貿易については、GATTの8回に及ぶラウンド交渉を経て、1995年にはWTOが発足するなど、着実に進展し、加盟国も当初の23から165になった。しかし、先日のAPECの会合に見られる通り、「多角的貿易体制」という言葉を入れることに米国が反対して宣言がまとまらないという異例の事態が生じている。米国の通商拡大法232条による鉄鋼、アルミ製品への追加関税賦課決定、自動車、同部品への追加関税検討、さらには、通商法301条に基づく対中追加関税など、いわば、無法状態ともいうべき状況は大変憂慮される。同時に、中国についても、知財権の取り扱い、国営企業への補助金など、問題が多い。
WTOについては、その三本柱の各々が挑戦を受けており、改革が必要。まず、貿易自由化については、WTO発足後限られた成果しか無く、また、ドーハラウンド交渉は頓挫。その理由の一つとして、加盟国が多すぎて、コンセンサスが得られない点があり、この解決のため、案件によっては、一部の国の賛成でも合意可能とすること等が議論されている。また、中国等の新興国の負うべき義務という大きな問題がある。第2に、協定履行の監視について、通報制度がきちんと実施されていない点がある。最後に、紛争処理メカニズム である。これが一番深刻である。現在、上級委の7名の委員のうち、在籍は、3名。これは、米国がこれまでの裁決で、同国の関心案件で敗訴することがあったため、委員の再任をブロックしていることによる。来年2人が、改選の時期に当たるため、これが拒否されると、残るのは、委員ただ1人となり、機能不全となる。。
また、WTOでの交渉が進まない中で多くのFTAができたが(日本も、既に、17件のEPAを締結)している。各々の関係が複雑になり、しばしばスパゲッティ ボールと呼ばれるが、自分は、TPP,日EU EPAは、将来の貿易体制の階層となる、いわば、ラザニアとなることを期待している。
かってアンチグローバライゼーションの動きあったが、今は、グローバルサプライチェーンの時代。多角的貿易体制こそ、今後の世界にとっても、日本にとっても、重要。先日、来日のアゼベドWTO事務局長と食事の際、「自由貿易は、空気や水のようなもの、なくなったときに、その貴重さが分かる」と話したところ、その後パリで開かれた第一次世界大戦終結100年記念平和フォーラムのパネル会議で、この言葉を紹介したとのことであった。
その後、米中問題、中国の行方、カショギ氏の殺害、日露関係など幅広い問題につき、活発な質疑応答を行った。
(文責 塚本 弘)